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【小説】リゾナントブルーのМVからストーリーを想像するスレ 第119話

1 :名無し募集中。。。@\(^o^)/:2016/04/14(木) 23:20:00.51 0.net
 「ほ、本当に?」
 「困っている人を放り出すなんて正義の味方のする事じゃないです。
  噂の中にはありませんでしたか?
  どんな相手の依頼でも引き受ける、それが私達です」

第118話 『雨ノ名前-rain story-』より

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113 :名無し募集中。。。@\(^o^)/:2016/04/17(日) 00:25:11.22 0.net
ロック・オーケンは何処を捜しても居なかった。
行き先をなくした彼の様に、飯窪と鮎川の二人も街角で術を失くし佇む。
鮎川の手には紙袋が握られており、渋川から譲り受けた本が詰まっている。

 「ロックさんのグループが作ったのは、異世界に行った主人公が
  仲間とともに魔法や超能力で戦って大団円となるお話。
  奥様のリルカさんのグループが作ったのは、大きな敵に立ち向かう
  主人公や、取り柄のない主人公に美女や美男、美少女や
  美幼女が惚れて学園生活をするお話です」
 「感想は?」
 「…私はロックさんの作品が好きですね。奥さんのも魅力的ですが」
 「へえ、幻想物語が好きなのね」
 「ご都合主義の物語でも現実があるのは確かですから」
 「リルカさんの作品の方がその気は強いと思うけど」
 「そうですね。物語は物語であればいいと思います。
  ただ面白いだけでいいと思います、それは幻想ですから。
  でも、それって結局は、物語のための物語ではないでしょうか。
  面白いだけなら、こうしてお話にして残すよりもっと簡単に
  面白くなれる事はたくさんありますよ」

飯窪は長い息を吐く。

 「私も幻想好きだけどね。もっと言えば愛すべきものと思う」
 「私もですよ」

鮎川の想いに、飯窪は信条を返した。
雨の街角で、一歩進んだ。そこはあのオーケンの家だった。

 「ここで始まったからには、ここで終わらせるべきですね」

携帯端末が震えた。
飯窪はそれを一度確認すると、それを鮎川に示す。

114 :名無し募集中。。。@\(^o^)/:2016/04/17(日) 00:25:50.85 0.net
 「警察の検死が確定したようです。リルカさんは何かの理由で
  棚に寄りかかり、頭に花瓶が落ちました。
  死因は脳挫傷。紛れもなく事故死です」
 「……そう」


鮎川が残念そうにため息を吐く。

 「ロックは哀れね。自分がリルカを殺したと勘違いして
  思わず逃げてしまうなんて。でも、無実が証明された以上は
  もう逃げなくてもいいのよね。早く捜しだしてあげないと」
 「そうですね。そろそろ助けてあげなくては」
 「その本人がどこに居るのか見当もつかないけどね…。
  さてと、次はどこに行く?」

鮎川の瞳に映る飯窪の表情は曇っていた。
数々の情報を組み合わせ、結論を出す覚悟を決める。

 「いえ、調査はこれで終わりです」
 「え?」
 「ロックさんは、逃げたままでいいのでしょう」

鮎川は驚きの表情と色を瞳に浮かべた。

 「何を言っているの?」
 「過酷な現実から逃れたのなら、もう彼を追う必要はないですよ」
 「良いの?それで貴方は、貴方の正義は許せるの?」
 「私が許す許さないという問題ではないです。
  彼が幸せであれば、それは私の願っていることと一致します」
 「後悔はないの?……いえ、それこそ私が言う事ではないわね。
  私は貴方の助手なんだから、従うわ」
 「一旦お店に帰りましょう。鮎川さんの事は私達がなんとかしますから…」
 「へえ、本当に終わるんだ」

115 :名無し募集中。。。@\(^o^)/:2016/04/17(日) 00:26:36.03 0.net
背後の声に、二人は瞬間的に振り向く。
路地から姿を現したのは背広の男。
壁に寄りかかり、ロメロが苦しげな顔をして立っていた。
傘も差さず、頭や高価な背広の肩から背中が濡れている。

 「貴方は…」
 「兄貴達に追い出されてね、実権分与から外された。
  もう俺には何もないよ。ああ絶望だ。絶望だなあ。
  ……あいつだけ夢に逃げ込むなんて、そんなのは認めない。
  一緒に現実を認め合うことこそ家族じゃないか、そうだろう?」

ロメロの言葉に、飯窪の表情が歪む。
男の頬には痙攣した笑み。

 「ダメ!言わないで!」

飯窪は瞬間的にロメロへ走りだそうとする。
男は危険だ。全ての幻想が崩れていく音が聞こえた気がした。
綻びの溝から、右腕が現れて緩慢に上がっていく。
示された指先と、哄笑。

夢は現実へ。










 「そこであんたは何をしている?オトウサン」

116 :名無し募集中。。。@\(^o^)/:2016/04/17(日) 00:27:36.46 0.net
  なあ、なぜあんたはそんな女ものの背広を着ている?
  どうしてそんな仮装をしている?
  ねえ父さん
  鮎川夢子っていうのはさ、これを言うんだよ

ロメロが鞄から取り出した箱は、地面に放り投げられた。
叩きつけられた箱は雨粒に徐々に濡れていく。
其処にはピンク色の彩りを纏った女性二人が映っている。
一人がまるで鮎川と同じ姿をしていた。

 「なんで?なんで私がここに映っているの!?
  これは私で、こっちも私……どういう事?どういう…!」

極度の混乱状態。
小さな瞳孔が恐慌するように戸惑う。
対して、DVDの表紙の鮎川は、自らが本物であることを誇る様に
胸を張っていた。

 「自分を見てみればいい。自分が自分であるという事を思い知れ」

ロメロの冷えた声に従って鮎川の瞳が下げられ、自らの手を眺める。
見るのは、細く皺が乗って枯れ木のような五本の指。

恐怖にかられた鮎川が鏡を捜す。
必死な瞳は、路上駐車されていた自動車の窓を見つける。
雨に濡れた表面に手をつき、自らの姿を映す。
自らを見返すのは華奢で柔らかい女性の姿、ではない。

鮎川を見返すのは、初老の角張った顔だった。
鮎川夢子は、いやロック・オーケンが両手を掲げる。
指先は恐る恐る自らの顔の造作を確認していった。

感触に跳ね上がった手が髪を触ると、女のカツラがずれて
白の混じった髪が露わになる。
怯えるように震える手で次に触った胸には、詰め物。
そこには女の様に化粧をして、カツラを被った哀れな男の姿があった。

117 :名無し募集中。。。@\(^o^)/:2016/04/17(日) 00:28:15.85 0.net
雨音を切り裂く絶叫。
言葉にならない悲鳴。男は歩道に膝をついた。
雨水が女ものの背広の膝を濡らす。

幻想が、砕かれた。

鮎川夢子は、飯窪自身の知人が以前出演していた映画の主人公だ。
妙に事情に詳しかったのもその所為。
彼がどうしてあの映画に固執したのかは分からない。
だが、彼女が本来存在し得ない人物だというのは知っている。
知っているが故に、飯窪は気付かせない様にしてきた。

 「………これはどういう事です?」

飯窪は傘を差したまま、重い口を開く。

 「依頼人のモモコさんは、最初から事の起こりを知っていました」

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