【工芸】「恥じない商品を」　『上大坊』経営者中心に共同店舗案　有馬人形筆店、工房全焼から再開へ

カイキニッショク

有馬人形筆の伝統絶やさぬ　工房全焼から再開へ

昨年１１月、神戸市北区の有馬温泉街で起きた火災で全焼した工芸品「有馬人形筆」の店舗兼工房「灰吹屋（はいふきや）西田筆店」が、年内にも再開する。
猛火で商品や工具、材料を全て失い、一時は再建を諦めかけた現在の７代目夫婦。
だが、温泉街の旅館経営者らによるエールと協力の下、夫婦は焼失を免れた先代の形見と一緒に再起を決意した。
「火災で温泉街にも大きな被害が出た。復興のためにも、もう一度伝統工芸品作りに力を注ぐ」

７代目夫婦は、西田健一郎さん（７１）と明子さん（７１）＝同区唐櫃台２。
創業年は不明だが、有馬で現存する唯一の工房だった。
昭和中期に廃れかけた有馬人形筆だったが、健一郎さんの祖父、５代目の西田徳治さんが復活させ、１９７０年の大阪万博に出品したことを機に有名になった。

ただ、筆のみで生計を立てるのは難しく、健一郎さんは会社勤め。
代わりに明子さんが、昨年２月に９３歳で亡くなった６代目の西田光子さんの下で職人技を受け継いできた。

火災が起きた深夜、たまたま異変に気付いた夫婦は、一緒に寝ていた孫を抱いて外へ避難。
木造２階建ての店舗兼工房は隣家からの炎に包まれ、材料や工具、品物は全焼した。
「頭が真っ白になった」と健一郎さんは当時を振り返る。

古希を迎えた夫婦は突然の災難に意気消沈し、制作を続けられずにいた。
しかし、５代目が作製した看板（縦約１・５メートル、横約４０センチ）と６代目の顔写真は猛火を免れた。
「奇跡だ。有馬人形筆を伝承しろ、という先代の思いを感じた」

同時期、有馬温泉観光協会の金井啓修（ひろのぶ）会長（６２）や、工房の向かいにある温泉旅館「上大坊」を営む堂加雅丈さん（５９）を中心に
「一緒にやろう」と共同店舗の案が持ち掛けられた。
夫婦は「周囲の励ましに応えたい」と再起への思いを固めた。

共同店舗は、焼け跡の約３５０平方メートルに建設。国の補助金を活用し、温泉街の景観を損ねないよう木造２階建ての日本家屋風にするという。
１階は工房の他、土産や飲食の店が入る。
２階は主に外国人観光客に狙いを定め、素泊まりのみの宿泊施設にする。年内には完成、開店させるという。

温泉街には今も有馬人形筆を求める観光客が多く訪れているという。
夫婦は「有馬の伝統工芸を継いでいくためにも恥じない商品を作り続けたい」と意気込む。

【有馬人形筆】筆先を下に向けると、筆軸から愛らしい豆人形が顔を出すからくり仕掛けの筆。
７世紀に孝徳天皇が有馬温泉に来た後、有間皇子が誕生した伝承から着想を得て、１５５９年に神戸の人形師が考案したとされ、
豆人形が出たり引っ込んだりする仕掛けが、温泉につかっている様子を再現している。
筆軸に細い絹糸を何重にも巻いて仕上げた華やかな模様が特徴。
１９９３年には兵庫県指定の伝統的工芸品になった。
https://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/201707/0010343355.shtml

【工芸】「恥じない商品を」 『上大坊』経営者中心に共同店舗案 有馬人形筆店、工房全焼から再開へ

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