中日社説：世界遺産と日韓―明治日本の遺産登録は「強制徴用」の負の歴史を含めよ

社説　世界遺産と日韓　登録は負の歴史含めて
2015年5月23日　中日新聞

世界文化遺産の有力候補になった「明治日本の産業革命遺産」に、韓国が反対している。
近代日本の発展を支えた施設が並ぶが、負の歴史も各国に丁寧に説明し、世界遺産の
登録を目指したい。

国連教育科学文化機関（ユネスコ）の諮問機関「イコモス」は日本が提出した二十三件から
構成される「産業革命遺産」について、ユネスコに対し世界遺産に登録するよう勧告した。

政府は推薦理由を「日本が非西欧地域で最初の産業国家となり、半世紀ほどで製鉄や
造船技術を確立した」と説明した。確かに明治以降の発展はアジア諸国のモデルとなり、
当時の中国や韓国からも多くの留学生が訪れた。

しかし、韓国政府は登録に異議を唱えている。炭鉱や製鉄所、造船所など七件の施設で、
植民地時代に朝鮮人が強制的に動員され死傷者が出たと指摘し、「人権の面からも世界
遺産には不適当だ」と主張する。日韓外務省の実務者協議が二十二日に行われたが、
歩み寄りはなかった。中国も過去に自国民の徴用があったとして、反対を表明した。

政府は「遺産としての対象期間は（明治時代末の）一九一〇年までで、戦時中の朝鮮人
徴用と時期が異なる」と主張するが、この区切り方は説得力を欠く。

炭鉱や製鉄所はその後も存続した。明治以降の日本は「富国強兵」を掲げたが、重工業が
戦争遂行を支え、戦時には隣国の労働者の強制徴用があったことは否定できない。戦前は
日本人労働者も含めて過酷な労働環境に置かれた。戦後の経済成長期を迎えても、炭鉱では
大事故が続いた。

続く