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織姫「彦星に会うのが辛いわ」
- 1 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 21:07:18.38 ID:TwxWj3kR0.net
- 七夕の日も近いので織姫と彦星の物語でも
七夕の日にしか会えない織姫と彦星、織姫には悩みがあるようで、、、
書き溜めたものを少しずつ投稿していきます
タイトル:『七夕の秘め事』
- 2 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 21:10:37.93 ID:TwxWj3kR0.net
- 第一章
ついに七夕の日が近づいてきてしまった。前までは一年ぶりに彦星と会えることを喜び心の奥底から随喜していたというのに、今はとても嬉しく思うことが出来ない。
織姫は暗闇の向こうを見張り、満点に輝きながら流れる天の川を遠目に追憶するーー。
私は物心がつく頃から着物を作る仕事をずっとしていた。年頃になった頃、父は私にお婿さんを迎えると言った。気乗りなどしなかった。今まで男性と付き合ったこともなかったし着物を作る仕事が好きだったので、結婚などせずにずっとずっと着物を作っているままで良いと思っていた。
でも結局、父は方々を探し回り天の川の岸で牛を飼っている、彦星という若者を見つけて連れてきた。早くに両親を亡くしてずっと仕事を一人でこなしており、よく働く立派な若者であると父は説明した。私は毛頭話すのも会うのも嫌だと言ったが、ついに根負けして彦星と会うことになった。私が生まれてまもなく母がすぐに亡くなり男で一つで育ててくれた父をむげには出来なった。
- 3 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 21:14:41.03 ID:TwxWj3kR0.net
- 彼を初めて見たとき、綺麗な艷やかな黒髪が印象的であった。そして、私と目が合うと優しく微笑んだ。彼の暖かな優しい目を見た時、私はすぐに彼のことを好きになった。出会った時に初めて恋というものを知り、恋はするものではなく落ちるものであると初めて気づいた。心や感情だけではなく全身から彼を愛おしく思った。彦星も初めて会った時、私を一目見ただけで好きになったとのちに言っていた。
私達はすぐに結婚をして楽しい生活を送るようになった。とても濃い蜜月だった。どの花の蜜よりも甘く、どの花の匂いよりも甘美な匂いを思わせる日々で私の今までの日常を全て取り払い彦星に捧げた。彦星も同様に私との時間のために全てを捧げて共に居てくれた。何をするにも一緒で、常に互いの心も体も一緒であった。
私達は仕事を忘れて遊んでばかりいた。そんな仕事のツケが回ってくるのは早かった。
- 4 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 21:16:55.93 ID:TwxWj3kR0.net
- 「仲が良すぎるのは困るのよ。織姫が機織りをしないので、みんなの着物が古くてボロボロなのよ。早く新しい着物を作るように言ってください」
「彦星がウシの世話をしないのでウシたちは痩せこけ、病気になってしまったよ」
私の父に皆が文句を言いに来るようになった。私の父はすっかり怒ってしまい私達を叱りつけた。
「二人は天の川の、東と西に別れて暮らすがよい!」そして、無理矢理に私達を引き離して離れ離れにした。
私は毎日泣き続けた。目を真っ赤にして涙が枯れても泣き声だけを漏らし続け、声が枯れても悲しみが止むことはなかった。
- 5 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 21:19:18.14 ID:TwxWj3kR0.net
- 「…ああ、彦星に会いたい。…彦星に会いたい」
心の底から愛した人と話すことも、一目会うことも、手紙を交わすことすらも出来なくなって私は毎日絶望し泣き続けていた。毎日泣き続ける私を見て父は聞いた。
「娘や、そんなに彦星に会いたいのか?」
「はい。会いたいです」泣きはらした顔を上げて答える。
「それなら、一年に一度だけ、七月七日の夜だけは、彦星と会ってもよいぞ」
- 6 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 21:23:28.62 ID:TwxWj3kR0.net
- もう決して、もう二度と会えなくなると思っていた私は一年に一度でも彼と会えることに喜び、その申し出を受け入れた。
それから私は一年に一度、彦星と会える日だけを楽しみにして、毎日一生懸命に機を織った。天の川の向こうの彦星も、同じように私と会うその日を楽しみに天のウシを飼う仕事に精を出していた。
そして待ちに待った七月七日の夜になると、私は小舟に乗り、カササギの後を追って船を漕ぎ、同じように小舟に乗って船を漕いできた彦星と天の川にある小島で一日だけの逢瀬を楽しんでいた。……そう、しばらくの間は。
初めのうちは一年に一度だけでも彦星に会えることを喜んではいたが、長い悠久の時の中で初期の淡い恋心はいつの間にかすっかり薄れて色あせてしまっていた。
- 7 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 21:28:55.39 ID:TwxWj3kR0.net
- 私達、星の住人は俗世の人たちとは寿命の流れが、年の取り方が違う。一年は同じように流れているが年を取る速度が果てしなく長い。永久とも言える長い悠久の寿命の中で生きているのだ。七夕の一日だけ、彦星と今まで何百回会ってきたか、もう思い出せないほど長い時が過ぎていた。
私の父もいつの間にか年老い、彦星と数十回前に会った時ごろに亡くなった。父が亡くなっても私達は自由に会うことは出来なかった。一年に一度だけ、七夕の夜だけしか私達は会えないようになっていた。
周りの天界の人々が止める訳ではない。気付いたら天界の規則、しきたり、儀礼となってしまっていたのだ。いつの間にか私達の関係は俗世に神話となって引き継がれ、紡がれてこの天界の規則を固定させてしまっていたのだ。私達、我々だけでは曲げることが出来ない呪縛のようなものになっていた。
- 8 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 21:34:35.97 ID:TwxWj3kR0.net
- 彦星と私を別々の岸に離している天の川は、他の人ならいとも簡単に数時間で渡れるようになっているが、私達が七夕の日ではない時に渡ろうとすれば川は荒れ狂い、全ての船、鳥さえも入ることを拒む。結局、私達が会えるのは父が決めた七夕の七月七日、年に一度だけであった。そのことは今でも変わらず、これから先も変わらない事実である。
「七夕の日のことでやはり悩んでいるのか? 織姫?」
彼の声によって今までの過去の記憶から現実に戻され、扉を開けこちらを心配そうに見ていた武仙(ぶせん)に気づく。
「ええ。彦星にあなたとのことを伝えるべきかどうか悩んでぼーっとしていたわ」
- 9 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 21:45:22.56 ID:TwxWj3kR0.net
- 武仙が私のところまで近づいてきて同じ窓の欄干に腰を下ろし、私の手の上に手を重ねる。
「彦星に会うのが辛いわ」武仙のぬくもりを感じつつ口に出す。
「行かない、会わないという選択肢はないのかい?」真摯な瞳を私に向けて尋ねる。
「前にも話したけど、その選択肢はないわ。もう、決まりごとというか儀式のようなものなのよ、私達が七夕の日に会うのは。いいえ、それ以上の、法則のようなものなの」
「でも、会わなくても何かが起こるなんてことはないんだろう?」彼の手に力が少し入る。
- 10 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 22:00:03.97 ID:TwxWj3kR0.net
- 「ええ、強制力も拘束力もないけれど会って当然。会わないなんてありえない、変え難い自然法則のようなものがあるの。うまく口では伝えられないけれど……」肌で感じている心情、感覚的に拒否出来ない心情を伝えようとするがうまく言葉として紡げない。
彦星と七夕に会うことを拒絶することは出来ない。眠るな、食べるなと言われているのと同義の法則が私と彦星に流れてしまっているのだ。今となっては忌々しい呪いである他ない。
「そうか。なら明日、彼と会うことは避けられないんだな。伝えるつもりなのか? 俺達の関係を?」
「実際に会ってみないと分からないわ。でも、きっと伝えないと思う」
- 11 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 22:01:17.26 ID:E2IfkRbc0.net
- 彦星・・・
- 12 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 22:10:09.18 ID:TwxWj3kR0.net
- 「そうか、俺は織姫に任せるよ。織姫が自分で選択して決めてくれ」
「ええ、ありがとう。ごめんなさいね、変な心配ばかりかけてしまって。子供にも良くないわよね」ほんの僅かに膨らみ始めたお腹を優しく愛撫する。
- 13 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 22:20:03.79 ID:TwxWj3kR0.net
- 武仙と出会ったのは去年の九月、風が冷たくなり始めて秋を感じ始めた頃だった。彦星と七夕の日に会ってから二ヶ月が経ち、もう寂しも郷愁もなくなっていた頃だ。と言っても彦星への寂しさも惹かれる気持ちも、数十回前の七夕の後から数日で無くなる程、互いの関係に慣れきってしまっていたが……。
いつものように機織りをして着物を作っていた時、見慣れない男性が訪ねてきた。それが武仙であった。
「実はこの着物を作った人を探していまして。ここの織姫さんが作っていると聞いてやってきたんだけれども、これはあなたが作った物でしょうか?」
- 14 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 22:30:18.15 ID:TwxWj3kR0.net
- 男性が手にしていた着物を見ると確かに以前に私が作ったものであった。織り方や着物に藍染めされている朝顔には覚えがある。
「ええ、そうです。確かにこれは以前に私が織った物です」
「やっと見つかった。ずっと作った人をあちこち探し回っていたんだよ」
顔を大きくほころばせて満面の笑みを見せている彼に聞く。
「こちらの着物が何かありました?」
- 15 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 22:40:07.91 ID:TwxWj3kR0.net
- 「いや、実は私も機織りの仕事をしてるんですがね、サイズが合わないからと知人から貰ったんですよこの着物。よく見ると複雑ながらも綺麗に繊細に織られていて、どんな人が作ったのか訪ねてみたくなって探してたんですよ」
浅黒い肌と肉付きがよくて締まっている体の彼が同じ機織りの仕事をしているのに驚いたのを思い出す。武仙とは同じ機織りの仕事を通して知り合いすぐに仲良くなった。私の機織りの高い技術と能力をとても褒めてくれた。
彦星と七夕の時にしか会えなくなるようになって間もない頃、少しでも寂しさを忘れようと機織りにだけ集中して技能を高めた。彦星のことを思い出さないようにするには意識を全く別のところに向けるしかなかったからだ。機織りで気分転換を行い続けいつの間にか能率も技能も上がっていた。
- 16 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 22:50:12.87 ID:TwxWj3kR0.net
- 春にはそんな経緯を武仙にも打ち明けられる程、親しく親密になっていた。そして、少しずつだけれども確実に私の心は武仙に惹かれていくのを自覚していた。なんて哀れで薄情なのだろうと、自責の念でいっぱいになっても私は武仙と会うことを止められなかった。
そして、週の日課のようになっていた私の織り方、細かい折り目の織り方について教えている時、私は武仙から告白された。
是認も否認も私は口に出せなかった。そして重ねられる武仙の唇を拒むことも出来なかった。彼が私を求めることを、服の内側の柔肌に彼の手が、指が触れても私は拒むことをしなかった。
- 17 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 23:00:10.53 ID:TwxWj3kR0.net
- そのまま私は彼を彼自身の体を受け入れた。何も考えず、流れる水のように私は流れに身を任せて沈んだ。ただ、普通の水や流れる川が感じない深い幸福感と温かい快味を感じていた。武仙との情事は彦星とは違った。私に触れる彼の唇も舌も指も手も腕も、とても優しくてまるで朝顔の蔦が這うように柔らかく絡んで私を包み込んだ。
とても心地よくて私は、久しく味わっていなかった精神的恩恵を甲高い自らの嬌声を聞きながら感じ続けた。
――そして私は武仙との子供を身ごもった。
- 18 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 23:05:56.63 ID:TwxWj3kR0.net
- とりあえずこれで第一章が終わり
やはり平日なので人が少ないかな?
本当は昨日から書き込みしたかったが規制されてて今日になってしまった(T_T)
- 19 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 23:11:31.64 ID:TwxWj3kR0.net
- 全部で4章あります
今日は2章まで書き込ます
- 20 :名も無き被検体774号+ :2020/07/06(月) 23:14:57.81 ID:TwxWj3kR0.net
- 第二章
小舟に乗り船をゆっくりと漕ぎ涼しい風を受けながらカササギの後を追う。カササギは毎年、七夕の日に私と彦星が会う小島までの道案内をしてくれる。
一年振りに渡る天の川。夜に見る天の川は何度見てもとても美しい。水の中に大小様々な星々が煌々と灯り、薄紫色や藤色や水色のグラデーションが複雑に重なり合って圧巻させる綺麗な色調を見せている。夜であるということを感じさせず、昼間と同じような明るさを放っていた。
自分の着ている着物が目に入る。私と武仙とで織った、一緒に共同で作った着物はとても良い出来上がりとなった。私の細かい糸の織り目と武仙の力強い糸の織り目が巧みに混ざり合って、複雑な織りの雅やかで着心地が良い着物となった。全体が葵色で中にうっすらと竹や笹の柄が薄緑色で施されている。
- 21 :名も無き被検体774号+ (ワッチョイ a33c-ERT+):2020/07/06(月) 23:23:54 ID:TwxWj3kR0.net
- もし今日が七夕の日でなければ浮かれて心地よい気持ちになっていただろう。こんな素敵な着物を着て武仙と一緒にいたかった。彦星とではなく武仙といたいという気持ちに罪悪感が込み上げてくる。
武仙は私が混乱するようなことは何も言わずただ微笑んで、いってらっしゃいの一言で送り出してくれた。
彦星に私達の関係を伝えるかどうかはまだ決めかねていた。もし、伝えてしまったら来年どんな顔で会えばいいのか分からなくなる。でも伝えないままでいたらこの先もずっと隠し事をしたまま彦星と七夕の日に会わなければならない。頭の中で逡巡し続けるも答えは出ないまま小島が見えてきた。
- 22 :名も無き被検体774号+ (ワッチョイ a33c-ERT+):2020/07/06(月) 23:26:40 ID:TwxWj3kR0.net
- 小島に小舟を寄せて降りる。彦星と会うこの場所は半径が百メートル程しかない小島で人は誰もいない。数本の木々が生え、草や花が所々に生えているだけでそれ以外は何もない。周りを見渡すがまだ彦星は来ていなかった。彦星と会ったらこれから夜明けまで一緒にいなければならない。そう考えると数時間会うだけなのに憂鬱な気持ちが胸いっぱいに溢れ出す。その気持ちをなんとか考えまいとして近くの倒れた木に腰を下ろして待っていると彦星が小舟で近づいてきているのに気づく。
「お待たせ。少し待たせてしまったね」船首を近くに寄せ降り立った彦星が近づいてくる。
「大丈夫よ、私もさっき来た所だったから」
彦星の顔を見るとなんの話しをしようか迷ってしまう。彦星は以前と変わらずの風貌であった。彼の目を見ると、私ではなくどこか遠くを見ているように感じた。いや、私の錯覚だろう。変な思いを振り払い彼の言葉を聞く。
- 23 :名も無き被検体774号+ (ワッチョイ a33c-ERT+):2020/07/06(月) 23:31:16 ID:TwxWj3kR0.net
- 「その着物、織姫が作ったのかい? とても上品でキレイだ」私の着物に気づく。
「ええ、そうよ。ありがとう、上手に織れたから私もとても気に入っているの」
「変わらず、元気であったかい、織姫?」
「ええ、変わらず元気だったわ。彦星はどう?」
私の近況を聞かれて緊張してしまう。私も同様に彼の近況を尋ねる。
- 24 :名も無き被検体774号+ (ワッチョイ a33c-ERT+):2020/07/06(月) 23:36:04 ID:TwxWj3kR0.net
- 「僕も変わらずさ、毎日仕事を頑張っているよ」
仕事を頑張っている。その言葉を聞き胸が痛くなり、罪悪感が滲み出てくる。妊娠していること、武仙とのことを伝えようという気持ちがさらなる罪悪を招きそうでその考えを思いの果てへと追いやるーー。
去年や一昨年と同じように二人で座り流れていく川を静かに見ながら、互いの近況の話しや世間話、仕事の話しをする。
彦星は何一つ変わっていないようであった。変わらず仕事を頑張り、仕事仲間や友達と良好な関係であるそうだ。最近、お酒を呑みすぎているのが困っていると言う。私も同様に最近の楽しみや面白かったことを武仙とのことには触れず話す。
- 25 :名も無き被検体774号+ (ワッチョイ a33c-ERT+):2020/07/06(月) 23:38:54 ID:TwxWj3kR0.net
- 互いに話すことがなくなると何も話さず、ただ一緒に川を眺め続ける。何かを思い出すか、話すことが出るとまた話し始める。私達は五年程前から七夕の日はそのように過ごしていた。彦星とはその頃から体の関係は持っていない。毎年、互いを求めて愛しあっていたが五年前の夜から彼は私を求めてこなかった。ただ腕に手を回し彼に抱き着いていただけで再会は終わった。その翌年以降もただ一緒に流れる川を眺め続けるだけだった。物寂しが毎年あったがそんな体の関係を今は持つことがないことに安堵を感じていた。
周りにホタルが飛び回りとても幻想的な空間を醸し出す。天の川の明かりとホタルの明かりのおかげでとても明るい。右隣にいる彦星の顔を見る。遠くの流れる水を見続けていて瞳の黒さの中に水面の明かりが反射している。
- 26 :名も無き被検体774号+ (ワッチョイ a33c-ERT+):2020/07/06(月) 23:42:57 ID:TwxWj3kR0.net
- 「綺麗ね。とても明るくて神秘的」
「ああ、ホントにそうだね」私の顔を見て言った後、また水面に顔を戻す。
彦星の左手が私の右手に重ねられる。彼の手の暖かさを肌に感じる。ぬくもりが伝わってくる彼の左手に目を落とす。以前と変わらない彼の指を見ていて気づく。少し日に焼けた手の中で薬指の根本に薄い白い一本の線が出来ているのを︙…。指輪焼けだ。比較的長い時間、同じ位置に着け続けて出来たものだと想像がつく。
彼の顔を自然な素振りで見る。彦星と先程会った時に気付いた、どこか遠くをみているような目。あれは錯覚ではなかった。以前のような優しい暖かな目を私に向けていなかったからだ。
――彦星、あなた別な人と結婚しているの?
- 27 :名も無き被検体774号+ (ワッチョイ a33c-ERT+):2020/07/06(月) 23:46:04 ID:TwxWj3kR0.net
- 第2章が終わりました
明日完結します
dat落ちしていないことを祈る
- 28 :鴉 ◆Raven....6 :2020/07/06(月) 23:56:18 ID:L5w5VfYX0.net
- ?
- 29 :名も無き被検体774号+ (ワッチョイW a33c-BX8w):2020/07/07(火) 00:17:44 ID:GLhqmYEm0.net
- 保守
- 30 :カムパネルラ ◆RvOoWMG3IE (アウアウウー Sacf-Apqw):2020/07/07(火) 00:18:16 ID:lV6h27oNa.net
- 珍しく地の文の多いSSですね?
- 31 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 01:25:25.36 ID:hkqidEN60.net
- 保守
- 32 :名も無き被検体774号+ (タナボタ Sdaa-BX8w):2020/07/07(火) 07:37:53 ID:EVwG97RMd0707.net
- 保守!
- 33 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 12:11:17.54 ID:aV0aVQwOM0707.net
- 見てます
- 34 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 20:58:57.10 ID:GLhqmYEm00707.net
- 無事落ちなかったので続きを投稿していきます
今日で完結です
- 35 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:01:34.53 ID:GLhqmYEm00707.net
- 第三章
流れ続ける川の水と星々の明かりをじっと見ながら隣にいる織姫を意識する。
今年こそ織姫に言うべきか悩む。ずっとこの五年、毎年会うたびに言おうかどうか悩んでは伝えられないでいたことがある。五年前に別な女性と結婚して、四歳と二歳になる子供がいるということを︙︙。この関係が壊れてしまうのが嫌なのではなく織姫を幻滅させ悲しませてしまうのが怖かった。自分の臆病さに腹が立つもどうしようも出来ないでいた。
織姫の父に仲介され初めて彼女と会った時、僕はすぐに彼女のことが好きになった。整った端正な顔立ち、肩まで伸びた黒髪。華奢な外見だけではなく話している中で感じられる彼女の優しい性格も全てが好きになった。そしてすぐに結婚をして二人で暮らし始めた。
- 36 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:07:00.69 ID:tlfqgRcy00707.net
- 保守
- 37 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:10:02.04 ID:GLhqmYEm00707.net
- 今まで生きてきた中でとても幸せであった。彼女と一緒に居られるこの日々が一生続くのだと思っていた。彼女さえいれば他のものは全ていらない。そんな気持ちで牛飼いの仕事を怠け続けていたら、彼女の父の怒りを買った。僕達二人は離れ離れにされてしまい一年に一度だけしか会えなくなった。
会えなくなった当初はとても辛く苦しかった。体が引き裂かれるような苦しみに悲しみ続けたけれど、数百年も経つ中で段々と織姫に会えない悲しさや辛さがなくなっていった。七夕の夜にしか会えないという事実を受け入れ、僕は織姫に会う前の時と同じ生活を送り続けた。……織姫がいなくなった心の穴を抱えながら。
五年前、友達と呑んだ帰り道、道に迷って困っている女性と会った。近くの街までの道を教え途中まで送って帰る中で、彼女が機織りの仕事をしていることを聞いた。そして、別れ際に今度着物を買いに行くと約束して別れた。
織姫と同じ機織りの仕事をしているので機織りの話しを聞こうと思い後日、彼女を訪ねた。
- 38 :カムパネルラ :2020/07/07(火) 21:13:19.80 ID:5ItMeu7Ta0707.net
- おかえりなさいC
- 39 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:19:35.89 ID:GLhqmYEm00707.net
- 彼女、くくり姫とは何度も会うようになり仲良くなって、互いに惹かれていった。織姫と会えない寂しさ、心の隙間を別の女性に求めることに嫌悪感を持っても会うことを止められなかった。くくり姫には織姫との関係を伝えた。伝えても彼女は変わらずに僕と会い続けてくれた。そしてくくり姫と一線を超えた。みずみずしい彼女の女体を求め深く愛し合った。弓なりに反った腰と首筋に腕を這わし、くくり姫を抱きながら二度と離したくないと思った。
彼女と暮らし始め共に生活を始めた頃、くくり姫が妊娠していると聞いた。
その年、七夕の日に織姫と会った時にくくり姫のことは伝えられなかった。そしてその時から織姫を抱かなくなった。普段の日々も織姫のことよりもくくり姫のことを考えることが多くなり、心はくくり姫に向き続けていた。七夕の日に織姫と会っている時も心は外に向いていた。
- 40 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:25:20.31 ID:GLhqmYEm00707.net
- 一年目はくくり姫の身重を気にかけ、
二年目は生まれたばかりの子供を気にかけ、
三年目は二人目を妊娠し子育てするくくり姫を気にかけ、
四年目は二人の子育てに追われるくくり姫と二人の子供たちを気にかけていた。
五年目の今日も織姫のことは話半分に聞き平静を装いつつも頭の中では妻と子供たちを心配していた。
- 41 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:32:16.90 ID:GLhqmYEm00707.net
- 織姫に互いに別々の道を歩くことを、互いに別の暮らしを持つことを示唆しようと思ってもいつも口に出せずにいる。そんなことを言えば彼女がとても傷つくのが分かっていた。
七夕の日に指輪を外すたびに、同じ考えと思いが悶々と堂々巡りし続けていた。
隣にいる天の川とホタルの明かりに染まった織姫の横顔を見る。そこには以前と変わらずに長い黒髪を携えた華奢なままの彼女がいた。いつもよりも可憐に見えるのは着ている着物のためだろうか。
見ていて気がつく。その着物が織姫一人で織ったものではないということに。織姫と一緒に暮らしていた頃は機織りの仕事はよく分からなかった。だがくくり姫と共に暮らし始め彼女の仕事も手伝うようになって、機織りのことをある程度分かるようになっていた。機織りの仕事は意外と力仕事である。織姫の着物は繊細に織られているところもあるが力強く織って丈夫に組み合わせてあるところもある。華奢な織姫だけでは作れない物だとすぐに分かった。
- 42 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:38:42.67 ID:GLhqmYEm00707.net
- 「今日着ている新しく作った着物、一人で作ったのかい? 一人で作るには大変そうだけど」織姫にそれとなく尋ねる。
「え? えと、知人の機織りの人に手伝ってもらったのよ。……一人ではさすがに作れなかったわ」
織姫の答える顔を見ると僅かに戸惑いとうろたえが感じられた。他に好きな男性がいるのだろうか。それとも、もう既に付き合っているのだろうか?
もしそうだとしたら、織姫も僕と同じように秘密を抱えていることになる。僕も織姫も心に秘めたことを何も言わず、二人で互いに秘密を抱えたまま今後も会い続けるのだろうか……。
- 43 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:44:59.84 ID:hkqidEN600707.net
- NTRとはNTRることと見つけたり
- 44 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:46:19.03 ID:GLhqmYEm00707.net
- 第四章
辺りがうっすらと白けてきている。彦星と別れる時間が刻一刻と近づいてきた。
私が妊娠していることと、彦星が別な人と結婚しているのかということを口に出してみたくなるがぐっとこらえる。
「そろそろ、帰ろうか」彦星がゆっくりと口にする。
「そうね、また一年後に会いましょう」重い口を開き私も告げる。
腰を上げて二人で乗ってきた小舟へと向かう。
- 45 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:54:47.57 ID:GLhqmYEm00707.net
- 「……彦星、私達このままの関係をずっと続けられるかしら?」
「続けるしかないよ。今日とずっと同じ日を……」私の顔を見ずに言う彦星の言葉に全てを悟る。
このまま互いに秘めたことを何も言わずに別れよう。これからもずっと私達は七夕の日に会い続けなければならないのだ。この関係をわざわざ悪化させる必要などない。ならば互いに秘密を隠したままこの関係を続ければいいのだ。仮面夫婦の関係を続けていけばいい。暗黙の了解のまま儀礼を遂行し続けよう。
目に浮かんでくる涙が溢れ落ちないように抑える。二人で別々の家庭を持とうと互いに幸福になれるならそれでもいいのかもしれない。自分の思う幸福と他人から見た幸福は違う。別々に家庭があっても周りが思う夫婦像を形だけでも続ければ良いのだ。
そう、俗世の人達が思う織姫と彦星の関係のままでい続ければいいのだ……。(終)
- 46 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 21:55:40.36 ID:GLhqmYEm00707.net
- これにて七夕物語、完結です
稚拙ながらお読み頂きありがとうございました
- 47 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 22:03:15.99 ID:GLhqmYEm0.net
- ちょっと最後のほうは駆け足になってしまいましたが
七夕の日を過ぎずに終わらせられてよかったです
- 48 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 22:43:24.91 ID:hkqidEN60.net
- 乙
分かりました
不倫肯定派ですね
- 49 :名も無き被検体774号+ :2020/07/07(火) 22:51:40.94 ID:GLhqmYEm0.net
- >>48
背徳の恋に妄想膨らませちゃいます
- 50 :鴉 ◆Raven....6 :2020/07/08(水) 02:08:36 ID:3HOuqvO00.net
- お疲れ様です
- 51 :フシアナ :2020/07/08(水) 08:29:01.79 ID:4hfJiEnmd.net
- 面白かったです!またお願いします!
- 52 :名も無き被検体774号+ :2020/07/08(水) 12:16:58.77 ID:aKbpK4dxd.net
- >>50 >>51
ありがとうございます!
- 53 :名も無き被検体774号+ (ワッチョイW 0547-0rmK):2020/07/08(水) 13:20:45 ID:Nq2lmc8Z0.net
- 面白かったよ
- 54 :カムパネルラ ◆RvOoWMG3IE (アウアウウー Sa09-I3eP):2020/07/08(水) 13:38:15 ID:il5Yka4ea.net
- 乙でした
ベガとアルタイルとデネブで14光年の三角関係ですもんね
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